うえだ通信
2018-08-31
巨象とイノベーション
米国を代表するフィルム業界の巨人「イーストマン・コダック社」。
かつては技術・人材・資産・販売力で他を圧倒していた超優良企業であった。
それが今ではイノベーションの波に乗り遅れた悲劇的な会社の象徴として語られている。
楡(にれ)周作著の小説「象の墓場」では、コダックジャパンで働いていた日本人社員の入社から退社までをドキュメント風に描いている。
デジタルカメラ、そしてカメラ付きケータイの出現によりコダック社の利益の源泉であったフィルム・現像・プリントの市場がアッという間に消滅した。
写真はプリントして見るものでなく、ネット上で共有するものになった。
今、写真を見るのは卒業写真か遺影ぐらいである。
「象の墓場」では、2012年の破産に至るまでの経緯を社内の人間関係も絡めて追いかけていて面白い。
一度はデジタルカメラを世界に先駆けて発売したコダック社は危機感を持ちながらもプリントは生き残ると考えていたが、写メというネットのもたらす破壊的変化までは予想していなかった。
さらに環境変化に対応できなかった理由を挙げると
・長年、現像・プリントで協業関係にあった多くのDPE店を保護する必要があった。
・直近の利益(配当)を要求する株主(投資家)の存在。
何のしがらみもないカメラメーカー・家電メーカーのデジタル攻勢の脅威に気が付いた時にはコダック社は後発メーカーのひとつになっていた。
一方、フィルム事業で競合していた富士フィルムは、フィルムで培った技術を応用してOA・電子材料・医療など多岐に渡る事業展開に成功している。
企業は立ち止まることは許されない!ということを学んだ一冊でした。